2021.9.12
横堀公隆
「スーパービジョンを受けて」
学生時代は、社会福祉援助技術論という教科が嫌いでした。夜間の専門学校で学びながら、日中、身体障がい者の作業所でアルバイトを行っていたこともあり、身体介護を中心とする実践の場で、ソーシャルワークの理論は本当に通用するのか?理論からの視点や分類にこだわると悩む当事者本人を見なくなるのではないか?といつも考えていました。理論に傾倒するクラスメイトに、専門性より人間性だ!と主張していた私は浮いた存在だったことでしょう。卒業後も、忙しさにかまけて社会福祉士の受験やいわゆる専門書というものには極力近づかないようにし、いつしかライフイベントごとに学生時代に使っていた書籍類も処分していました。
社会人となり数年が経つと嫌でも後輩に伝えたり、外部に発信する立場となります。日々の業務の中で自分の感覚で行ってきた介護のやり方やクライアントとの対人関係の築き方を相手に伝える手法がなく、そもそも、クライアントや家族との関係性、コミュニティへのアプローチ、クライアントの生活課題への対応方法に対する私の考え方が正しいのか本当に困る事が多くなってきました。管理する立場になるにつれ、いわゆる啓発本を手に取り、悩んでいた時期を思い出します。今考えると本当に手に取らなくてはいけなかった書籍は別にあったのかもしれません。
その後、介護の現場から、相談業務に移るにつれ、さらにその戸惑いが増し、迷走します。この職場が向いていないのではないか。そもそも社会福祉の仕事は自分に向いていないのではないか、何かに責任転嫁しないと自分の平衡状態が保てない自分がいました。すがるように社会福祉士試験の勉強を再開し合格と同時に社会福祉士会始め職能団体に加入。何とか相談業務で飯を食っていきたいと、各職能団体の様々な委員会や研修に顔を出すようになり約15年。たまたま日本社会福祉士会の研修で藤林先生にお会いしたのがご縁で、今回、ソーシャルワーク研究会の中でスーパービジョン(以下、「SV」と表記)を受ける事となったわけです。
幸運なことにソーシャルワーク研究会の貴重な時間の中、3回もSVを受けさせていただきました。北島先生、藤林先生、松山先生、そして参加していた皆様、その節はありがとうございました。日本の社会福祉をけん引する素晴らしい先生方とSVを通じ向き合う事は貴重な体験でした。実は当初、藤林先生からご紹介いただき、SVに提出する事例をまとめている時は意気揚々でした。様々な関係機関と長期間にわたって介入してきた事例です。しかし、行政機関はじめ関係機関との連携における課題が多く、関係者の向いている方向性もそれぞれずれており、実は今回のSVで何かヒントが見つかればとも思っていました。ソーシャルワーク研究会でSVを受けることは職場の上司、同僚にも相談し、事例の記録類を勤務時間内に整理していても目をつむってもらいました。
北島先生との初回のSV。契約を交わす事から始めましたが、「あなたはプロではない!」冒頭からストレートです。日頃、理論と実践の両輪が必要だと感じ、業務の中や研修の場で周囲に伝えてきたつもりでしたが、私自身が、SVとは何なのか、ソーシャルワークとは?、肝心な実践を理論化する作業を行ってこなかったことが露呈します。以降は、ボクシングに例えると、ひたすら殴られ続け、どうにでもなれとノーガードの自分がいました。そもそものSVを受けるための資料の作り方、SVは事例検討会ではない事、この事例の中のクライアントは一体誰なのか、自分が所属する機関の役割と限界を見極めているのか、曖昧にしていたい部分が隠せない。対面ではなく、Zoomによるオンラインで良かった。
その後も、「なぜ、この人ではキーとなりえないと感じたのか」、「何のために訪問したのか」、「どうしてそのように考えたのか」等々、怒涛のラッシュに愕然としました。自分なりの理由はあっても、専門用語で根拠が表現できない。頭の中が混乱し「そう感じたから」としか返答できません。1回目,2回目とその場に参加していた、学生時代のクラスメイトがいたたまれなくなったのか、研究会の後、私の連絡先を探しあて、職場に激励のメールをくれました。また、2回目のSVの冒頭、「怒る(怒鳴る?)SV」も存在することを説明いただき、フォロー(たぶん)してくれた藤林先生、二人に感謝です。
3回目のSV。松山先生からも、初めから、この資料では「ソーシャルワーカーとしての部分が見えてこない、SVは難しい」と指摘がありました。これまで、社会福祉士や介護支援専門員の研修等では、時系列に整理する事例資料作成は良く行っておりました。自分の推測を入れず、客観的にあるがままを記載していく。SVでは資料の作り方も違うのでしょう。私見ですが、日々行っている面接そのものは、断片的なものの集積であるため、あえて面接の中の部分にこだわり、小さくとらえ、そこを綿密に、なぜそのように考え対応したのか、理論とともに振り返る作業がソーシャルワーカーとして、SVに提出する資料としては必要なのではないかと感じました。とにかく、ソーシャルワーカーとクライアントの面接記録(対話、根拠含め)が抜けている資料では、そもそもSVはできないと言われていたのではないかと冷静になった今は振り返っています。
松山先生は、何故私がそう思ったのか、感じたのか、なぜそのように伝えたのか、紙面にない潜在的な部分や理由を表面化しながら、振り返っていただいた上、システム理論にて整理し、根拠を持った実践の必要性を教えてくれました。3回に渡るSVを通じ、ソーシャルワーカーとしての個別援助能力を高めるには、自分がどのような根拠の上で相手と対峙していたのか、実践の中で振り返る作業をし、表現していくことがこれから、自分の課題だという事を学びました。
ご存じのように現在、福祉・介護分野は人材氷河期です。実践の場だけでなく、日本社会福祉士会等などの職能団体も会員減が大きな課題となっています。相談業務にしろ、介護業務にしろ、様々な訴えを受け止めるためバーンアウトしてしまいがちな事もあるでしょう。インターネットをみると「低賃金なのは、誰でもできる仕事だから」等々心無い言葉もあります。確かに、自分の周囲を見渡すだけでも、クライアントの訴えをすべて肯定し、デマンドとニーズの整理もせず、それを疑問に感じず、御用ワーカーやケアマネジャーでいればよいとの姿勢の方々も見受けられます。福祉業界にしか就いたことがない私にとっては、正直、非常に悔しい。
実践の場で中心となっている私たちが、実践と理論の両輪を意識し、実践の中でどのような根拠をもって自分は行っているのか言語化すること、それを実践の場で仲間たちと共有していくこと、そして外に向かって表現すること、この繰り返しが後輩や、これから社会福祉を目指そうとしている方々、そして社会に伝わり、福祉・介護分野の魅力ややりがいにつながると信じています。
相談業務は、人や環境、時間等とある中、私たちが言葉や表情で相互交流する事で、時に新たな場面が創り上げるきっかけが生まれる事に私は魅力を感じています。その実践知を専門的に表現できるようになりたい。3回に渡るSVで学んだことを少しでも実践で活かし、実践→理論→実践→理論・・・と積み上げていく作業をし、今後も実践者の立場から声を上げていきます。
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