2022.7.11
佐久大学 根本貴子
がん相談支援センターへのアクセシビリティ
第40回ソーシャルワーク研究会では、貴重な話題提供の機会をいただいたので、私が現在取り組んでいる「がん相談支援センターの活用促進」というテーマについてお話しさせて頂いた。ここでは、がんサバイバーを支援するということについて、がん相談支援センターの「活用」支援という観点から改めて考えてみたい。
生涯においてがんと診断される割合が二人にひとりという試算があり、多くの人ががんサバイバーとなる時代である。がん医療の進歩による生存率の向上と共に、多様なソーシャルワークニーズを抱えている人が増加していて、治療の後遺症や副作用などのがん治療に特有の身体的苦痛のほか、就労や家族役割に関する心理社会的な問題、命にかかわる深い実存的な問題に対する潜在ニーズがあるともいわれている。
日本のようにソーシャルワーカーの多くが組織に所属している場合、その機関の機能を遂行することを通してソーシャルワークサービスは提供される。したがって、相談支援機関に所属するソーシャルワーカーが日々の自己研鑽によって専門職としての技能向上に努め、高い専門性を有していても、その専門性はサービスを求める人が相談支援機関を活用しなければ実を結ばない。同様に、がんサバイバーらががん相談支援センターを「活用」して、はじめてがん相談に関する専門的支援を享受し、自己の課題解決のサポートを得る。言い換えれば、がん相談支援センターはがんサバイバーらに有効に「活用され」て、かれらの社会資源になるのである。できるだけ使い勝手の良い資源であることが望ましいといえるだろう。
ソーシャルワーカーは人の潜在能力と強さを信頼し、支援を必要としている人の多くが回復力と資源力をもっているという信念に基づいて支援を行う。その方法は、がんサバイバーに対するときにも多様なアプローチがあり得るのだと思う。相談支援機関(ソーシャルワーカー)という社会資源の活用を抑制し阻害する要因を軽減させ、活用を促進する環境を提供することができれば、困難や苦痛のために潜在能力が損なわれているようなときにも、資源の能動的・自発的な利用=活用をサポートすることができるのではないだろうか。
「自分を取り戻せるための空間やサポートを」というコンセプトのもと、がんサバイバーを支援することを目的として設立されたマギーズ・ケアリングセンターは、世界的な支持を得てイギリス国外にも拠点を増やし続けている。自身が乳がんサバイバーで発起人のマギー・ケスウィック・ジェンクス(1941-1995)は、適切な支援があれば、がんと診断されたときに「死ぬことを恐れて生きる喜びを失う」ことはないだろうと考えたとされる。ここでは、予約は不要で匿名で誰もが快く迎え入れられ、求めに応じて専門家のサポートを受けながら思いのままに過ごすことができる。適切な支援を追究するとともに、適切な支援が適切に活用されるための手立ても重要であることを考えさせられる。
心理的な葛藤が生じにくく、気軽にアクセスできる場があれば、それまで相談を躊躇していた人や相談支援機関を利用した経験のない人、あるいは、専門職に相談するということすら思いつかなかった人でも、ふと立ち寄ってみたくなることがあるかもしれない。そんなささやかなきっかけが、ひとりで困難を抱えるがんサバイバーにとって、実はとても重要な支援になるのではないかと思う。
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